近年、大学入試の制度改革が進められており、その中で注目されているのが「総合型選抜」です。総合型選抜とは、従来の学力や成績だけでなく、人物や意欲、将来の夢などを総合的に評価する入試制度です。

本記事では、総合型選抜の入試制度、他の入試制度との違い、総合型選抜の試験概要、総合型選抜を受験する際の注意点について、詳しく解説しています。

どんな入試制度なの?

総合型選抜制度とは、一般選抜のような、いわゆるペーパーテストの点数のみで入学試験の合否を判定するものではなく、志望理由書などの提出書類、面接や小論文、ときにはグループディスカッションやプレゼンテーションを課すこともしながら、受験生の能力や適性を総合的に判断する入試制度です。

大学側は、各選考を通して、”本学の求める学生像(アドミッションポリシー)”にどれだけ合致しているかを判断し、合否を決定します。

アドミッションポリシーって何?

アドミッションポリシーとは、各大学が定める”入学者の受け入れ方針”のことです。

各大学には、”本学で〇〇を身に付けて卒業してほしい”というような教育理念(ディプロマポリシー)があり、理念達成のためにどのようなカリキュラムを用意するのかという教育方針(カリキュラムポリシー)を持っています。これらを踏まえ、”こんな学生に入ってきてほしいな”という、大学側の理想とする学生像のことをアドミッションポリシーと言います。

アドミッションポリシーの例
  • 早稲田大学

本学では、国内および世界のあらゆる地域から学生を迎え入れる。入学者選抜では、本学で学びたいという高い勉学意欲と知的好奇心、および入学時点で最低限必要となる水準の知識・技能の有無を確認する。さらに入学後の学修の基礎となる論理的思考力・判断力・表現力、および主体性・協働性を選抜において確認する。
※『早稲田大学HP』より一部抜粋

  • 慶応大学経済学部

社会に積極的に関与する強い意志を持ち、自らの智力によって変化する社会を把握しようという気概をもった人間を求めています。また、学問的基礎に基づいて厳密に考える能力にすぐれると同時に、バランス感覚に富み、多様なものの見方を尊重できる人材の育成を目指しています。このような知性により社会の指導的役割を担える潜在力を備えた多彩な学生を受け入れたいと考えます。
※『慶応大学HP』より一部抜粋

総合型選抜では、このアドミッションポリシーをしっかりと理解し、自分の能力や適性が大学の求める学生像と合致しているかをアピールすることが重要です。

総合型選抜を採用する大学が増えている?

2021年度入試から導入された総合型選抜制度(旧AO入試)ですが、導入以降、利用する学生の数は毎年増加しています。

文部科学省が発表した”令和5年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要”では、2023年度の大学入学者数において、総合型選抜を利用して入学した学生の割合が、全体の14.8%にも及んでおり、学校推薦型選抜と合わせると、なんと全体の5割を占めていることが分かります。

実施年度入学者数(人)
令和3年度(12.7%)
77,921
令和4年度(13.5%)
84,908
令和5年度(14.8%)
92,393
※(  )は全体入学者数に対する割合です。
※『令和5年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要』より一部抜粋。

また、総合型選抜は、志願者数・入学者数ともに、4年連続で増加傾向にあり、この傾向はこの先も続いていくと予想されています。

大学入試制度には大きく3つの区分があり、それぞれ一般選抜、学校推薦型選抜、総合型選抜と呼ばれています。

以下では、各選抜方法の違いを、総合型選抜に焦点を当てながら詳しく解説しています。

一般選抜との違い

一般選抜は、学力テスト(大学入学共通テストや個別学力検査)の成績のみで合否を判定する入試制度です。そのため学生たちは、志望大学の定める学力水準を目標に掲げながら、受験教科の勉強に励むことになります。

一方、総合型選抜は、学力テストの成績に加えて、書類や面接などの選考も行われます。大学側は、学生の基礎学力に加えて、学習意欲、将来のビジョンなどを総合的に評価します。

また、一般選抜は1月~3月頃に実施される場合が多いことに対して、総合型選抜は、9月~12月に実施される場合が多い、というような、実施時期の違いもあります。

学校推薦型選抜との違い

学校推薦型選抜と総合型選抜では、選考内容が似通っていることから、2つの選抜方法の違いが曖昧な方が多くいらっしゃいますが、以下で2つの選抜方法の違いを理解しましょう。

学校推薦型選抜とは、文字通り、”通っている高校が大学側に学生を推薦する”方法です。学校推薦型選抜には、指定校型と公募制型の2種類があり、そのどちらにおいても、高校からの推薦書が必要になります。また、最低限の学力を担保する材料として、高校の評定平均に基準が設けられている場合が多いです。

一方、総合型選抜とは、言うなれば、”自分自身を大学に売り込む”方法です。志望理由書や面接を通して、自分がいかに大学のアドミッションポリシーにマッチした人間なのか、自分を大学にプロモーションしていく、という訳ですね。学校推薦型選抜とは異なり、高校の推薦状を必要としないので、誰もが自由に挑戦できる、という点に違いがあります。

AO入試から何が変わった?

2021年度入試から導入された総合型選抜制度ですが、その前身にあたるAO入試(アドミッションズ・オフィス入試)から、何が変わったのでしょうか。

”大学側が求める学生像”に合致した学生を積極的に受け入れる、という基本方針は変わっていません。

総合型選抜とは、AO入試の頃からの基本方針に、基礎学力検査を加えたものと考えると分かりやすいです。具体的には、小論文や面接のみの試験から、高校の評定平均を記した調査書の提出が、出願条件に加えられています。

総合型選抜の出願条件

総合型選抜の出願条件は、大学・学部によって様々です。以下に、出願条件になりやすい項目を紹介します。

出願条件に挙がりやすい項目

本学の入学を強く志望し、第一希望で入学を志す者
大学が求める学生像に即した志望理由を持つ者
卒業(見込み)年度の制限(卒業してから何年以内など)
調査書の評定(4.0以上など)
特定の科目を履修している者
外部検定のスコア(TOEFL IBT70点以上など)
部活動の大会の成績

総合型選抜の出願条件は、志望する大学によって、厳しい条件である場合もあれば、比較的出願しやすい場合もあります。総合型選抜の利用を考える際は、まずは志望大学の出願条件を確認しましょう。どの大学も大学HPから確認することが出来ます。

出願条件の例
  • 同志社大学商学部

1.同志社大学で勉学したいと強く希望し、第一志望として入学を志す者。
2.志望する学部が求める学生像に即した志望理由を持ち、
  かつ、志望する学部が定める個別の出願資格を満たす者。
3.以下の①~④のいずれかを満たす者。
①TEAP(4技能パターンのみ) 280点以上(TEAP CBT不可)
②TOEFL iBTⓇテスト 70点以上
③IELTS(アカデミック・モジュール) 5.5以上
④TOEICⓇLISTENING AND READINGテスト 650点以上
※『2024年度ガイドブック/募集要項同志社大学AO入試』より一部抜粋
※卒業(見込み)年度の記載は省略

  • 立命館大学理工学部

1.立命館大学理工学部の出願学科を第一志望として勉学を希望する者
2.以下の要件を満たす者
  <高等学校等卒業見込者>
  第 1 学年から第 3 学年 1 学期終了時までの「全体の学習成績の状況」および「数学」
  「理科」「英語」それぞれの「学習成績の状況」が 5 段階評価で「3.0」以上
3.以下の①、②の両方の要件を満たす者。
  なお、以下について修得の「見込み」で出願し、入学試験に合格した者が、
  2024 年 3 月 31 日までに修得しなかった場合は入学を許可しません。
  ① 「数学Ⅰ・数学Ⅱ・数学Ⅲ・数学 A・数学 B」または「理数数学Ⅰ・理数数学Ⅱ・
    理数数学特論」を履修し、その単位を修得または修得見込みである者もしくは
    実用数学技能検定準 1 級以上を取得した者
  ② 「物理基礎・物理」または「理数物理」を履修し、その単位を修得または
    修得見込みである者
※『2024年度(総合型選抜)AO選抜入学試験理工学部「理工セミナー方式」入学試験要項』より一部抜粋
※卒業(見込み)年度の記載は省略

総合型選抜の選考内容

総合型選抜の選考内容も、大学によって変動はありますが、多くの場合、以下の項目が課されます。

1次審査

  • 評定平均(調査書)
  • 志望理由書

2次審査

  • 小論文
  • 面接
  • プレゼンテーション
  • グループディスカッション
選考内容の例
  • 明治大学文学部

第1次選考

  • 出願表
  • 志願表
  • 振込連絡票
  • 自己推薦書
  • 評価書
  • 調査書

第2次選考

  • 小論文
  • 口頭試問

※『2024年度文学部自己推薦特別入学試験要項』より一部抜粋

総合型選抜の選考スケジュール

総合型選抜は、1月~3月に行われる一般選抜に先駆けて行われ、その多くは9月~12月に行われます。学生にとっては進路が早く決まり、大学にとっても、早期に学生を確保できるため、双方にとってメリットがあると言えそうですね。

一般選抜との両立

筆記試験が課されない総合型選抜と言えど、評価書の提出がほとんどの大学で課されている以上、学業を疎かには決してできません。

一般選抜との両立を成功させるうえで最も大事なことは、”早めに準備にとりかかる”ことです。時間に余裕のある高校1年生・2年生のころから、学校の授業を真面目に受けることで自ずと、双方の選抜の対策になるはずです。

総合型選抜と一般選抜の両立成功のカギは、タイムマネジメントに徹することと言えるでしょう。

一般選抜よりも出願時期が早い?

総合型選抜の出願時期は、一般選抜の出願時期よりも早期に行われます。一般選抜と同じ感覚で出願準備に取り掛かると、出願時期が過ぎちゃってる…、なんてことになりかねません。

総合型選抜を志したらまずは、志望大学の入試要項を確認し、早め早めの準備・対策を心がけるようにしましょう。

総合型選抜は併願出来ない?

基本的には、総合型選抜を利用する際は、専願が条件であることが多いです。ただ、大学によっては併願が出来る大学もあるので、出願予定の大学が併願可能かどうか、大学の入試要項から確認してみましょう。

ただし、総合型選抜の出願条件でも触れましたが、総合型選抜を採用するほとんどの大学が、”第一希望で入学を志す者”という項目を出願条件に記載しています。

併願出来るからと言って、滑り止め感覚で安易に他の大学に併願すると、本命の大学に”他でも受験するということは、本学が第一希望ではないのかな?”と、あまり良くない印象を与えてしまう場合もあるので、併願する際はよく考えて、慎重に判断しましょう。

総合型選抜は、従来の学力や成績だけでなく、人物や意欲、将来の夢などを総合的に評価する入試制度です。

自分の能力や適性をしっかりとアピールし、大学側が求める学生像と合致していることを示すことが、合格へのカギとなります。

教育に従事することを目指している、もしくはすでに従事している大学生や社会人の皆さんは、これから需要が増える、総合型選抜の概要や注意点を理解し、生徒の指導に役立ててください。